PROJECT STORYプロジェクトストーリー

EPISODE

負けることのできない闘いと、
彼らは云った。
2009年夏に発売した人気コーンスナック「エアリアル」の、
さらなるマーケット拡大に挑む
ヤマザキビスケット社員3人の
軌跡を追った。

  • K. N.

    K. N.

    営業部販売企画課
    1996年入社
    商学部商業学科卒

    東北および東京西営業所を経て、2011年から本社の営業部販売企画課へ。営業所で鍛えた行動力と洞察力を武器に、営業部の司令塔として「エアリアル」の販路拡大を狙う。

  • U. T.

    U. T.

    マーケティング部商品開発課
    2006年入社
    生物資源科学部食品科学工学科卒

    工場の製造担当、開発研究室を経て、2013年からマーケティング部商品開発課へ。現在「エアリアル」ブランドマネージャーを務める。

  • S. A.

    S. A.

    マーケティング部商品開発課
    2001年入社
    農学部生物資源学科卒

    工場の製造担当、開発研究室を経て、2005年からマーケティング部商品開発課へ。過去に「エアリアル」の開発マーケティングを担当。

※所属は取材当時のものです。

01 待ち望まれた 新たな“スター”の誕生01

待ち望まれた
新たな“スター”の誕生

ヤマザキビスケットのスナック商品に、ポテトに代わる新たなスターを。ポテトスナック「チップスター」という人気ブランドを持つ同社では、長らく第二の主軸となるスナック・ブランドの誕生が待ち望まれていた。2009年8月、そこに登場したのがコーンスナック「エアリアル」だ。当時入社3年目のUは、そんな「エアリアル」開発メンバーの一人だった。Uは製造ラインから新商品を生み出す開発研究室に異動したばかり。連日の試行錯誤が続く中、スタッフが集まってのミーティングで、ミルフィーユのように4層に重ね合わせる案にたどり着いた。これこそ、「エアリアル」が生まれた瞬間だった。
「アイデアの中から商品化するまでの流れを見届けたのは、『エアリアル』が初めてでした」。Uは懐かしんだ。「開発に来て、毎日あーでもない、こーでもないと皆で練りに練って、ついに満足いくものが出来たんです。当時は仲間うちで『かるっと』と呼んでいましたね」。

独自製法の新商品は発売間もなく大ヒット!ところが…

独自製法の新商品は
発売間もなく大ヒット!
ところが…

薄いコーン生地を4枚重ね合わせた軽やかな食感。「完璧な作り込みだ。これならいける」。新製品会議で初めて「エアリアル」を口にした商品開発課のSは、確信した。いつもと違う手ごたえを感じたのはSだけではなかった。会社全体が「エアリアル」のおいしさに沸いていた。
「これはきちんと育て上げさえすれば、定番商品として根付かせる力を持っている」。商品を売り出す戦略を立て、ブランド全体をコントロールしていくのが商品開発課だ。そのマーケティング担当として、Sの心はいつになく高揚した。

量販店は新商品というだけですぐに棚に並べてくれるわけではない。しかし他社商品にはないおいしさと独自製法を全面に出した狙い通りに、「エアリアル」は発売当初から順調な滑り出しを見せた。採用基準が厳しい大手コンビニの店頭にも並び、社内のお客様相談室には「おいしい」「どこで売っているのか」など問い合わせが相次いだ。その件数はこれまでのどの新商品よりも多く、群を抜いていた。「しお」「チェダーチーズ」「焼きとうもろこし」の3品を定番に、発売から半年経たずして年間の売り上げ目標を達成。翌年も新しい味を加え、快進撃は続くかのように思われた。

独自製法の新商品は発売間もなく大ヒット!ところが…
02 低迷期からの脱却を目指して02

低迷期からの脱却を
目指して

変化は急激に訪れた。発売後1年が過ぎると「エアリアル」の売り上げに減速感が見えはじめ、最終的に前年比8割に落ち込んでしまった。Sの頭には嫌な前兆に思えるデータだった。もちろん商品のクオリティーに変わりはない。「初速が好調でも急に減速していく。これまで定番商品になれずに消えていった共通パターンに落ち込んでいくようにも見えました。社内にも、『もうダメか』という見方もあったのかもしれません。でも、ここで終わらせたくなかった。『エアリアル』はこんなものじゃない。もっとポテンシャルがあるはずだと、確信があったんです」。

新たな挑戦となるリニューアル、そしてCM放映へ
低迷期からの脱却を目指して低迷期からの脱却を目指して

ある日、同行した商談の席で、Sはいつものように「エアリアル」のおいしさを伝えた。だがそこで、大手量販店のバイヤーから予想外の言葉が出てきた。「おいしいのはわかります。でもコーンスナックにどのような消費者ニーズがあるのかがわかりません」。Sはバイヤーの意識の変化を感じ取った。消費者がどのようなコーンスナックを求めているのか、そしてなぜ「エアリアル」なのか。商品を採用するための裏付けとなるデータをバイヤーは求めている。ほんの数年前までは新商品を投入すれば、しばらくは店頭に並んでいるのが常だった。しかし今は、早ければ2週間で商品が棚から消える。大手流通企業は独自のプライベートブランドを抱えるようになり、棚を作る上で、誰もが個々の商品を売る理由を必要としているのだ。マーケットはSの考える以上に、急激に変化していた。
「原点に立ち返り、消費者の気持ちを一から探ろう」。
その後のSの手の打ち方は早かった。翌年のリニューアルを見据えて、急遽、市場調査を実施。その結果浮き彫りになったのは、「軽い食感」と、ひとつ、ふたつと食べてしまう「連食性」、「香ばしさ」。この3つを重視してコーンスナックを購入する消費者の姿だった。食感と連食性で、「エアリアル」は他社商品を圧倒していた。しかし、同時に肝心のコーン風味が負けているという事実も明るみになった。

03新たな挑戦となるリニューアル、そしてCM放映へ

新たな挑戦となる
リニューアル、
そしてCM放映へ

「今度のリニューアルで、失敗はできない」。Sは焦燥感に駆られていた。より完成度の高い商品を目指すために、マイナーチェンジの中で、どのような次の手を打っていくか、開発研究室で「エアリアル」担当となったUと、二人三脚になって手探りの日々が続いた。

一方で、おいしさに絶対の自信を持っていたSは、エアリアルの認知度を何とか上げられないかと頭を悩ませていた。会議を重ねる中で、誰からともなく「CMを打てないか」という意見へとまとまっていった。「認知度を上げて、一度でも食べてもらえれば確実にリピーターは増える」。そう考えていたのは、S一人ではなかった。しかし、これまでの事例から考えると、実現にハードルが高い案件に思われた。売り上げ規模に対する、CMを制作するための社内基準は非常に高いものであったからだ。それでも「エアリアル」の戦略と可能性をマーケティング部長に訴えた。

「よし」。Sをはじめとした商品開発メンバーの意見を聞いた部長はそう言うと、経営陣を説得。予算を確保してくれた。「エアリアル」を簡単には終わらせまい。その意気込みを社内全ての人間が共有した瞬間だった。CM制作決定に背中を押されるように、味のリニューアルも順調に進みだした。調査結果が低調だったコーン風味を改良。パッケージも「エアリアル」の4層構造がより伝わるものに変えるなど、巻き返しに向けて着々と準備は進んでいった。

0404 営業に足りていないのは、「この商品を売りたい!」という気持ちだった
04 営業に足りていないのは、「この商品を売りたい!」という気持ちだった

営業に足りていないのは、
「この商品を売りたい!」という気持ちだった

04 営業に足りていないのは、「この商品を売りたい!」という気持ちだった

2012年春、人気タレントが出演する「エアリアル」のCMがお茶の間に流れ、リニューアルした商品が全国の店頭に並んだ。再スタートの出だしは好調だった。しかしその頃、このニュースを「一時的なものではないか」と考えている男がいた。東京西営業所から本社の営業部販売企画課へ異動したKである。Kは営業のエースとしての実績を買われ、販売企画課に移って一年が経とうとしていた。やはり、「エアリアル」の行方を気にしていた一人であるKの胸中には、何か引っ掛かるものがあった。CM放映とリニューアルが功を奏し売り上げは伸びたが、いつか落ちるのではないか。長い現場経験の中で、そういった商品をいくつか見てきていたからだ。

販売企画課とは、商品の特徴や売り上げの分析、市場の背景、販売方法などの情報を、全国の営業スタッフに向けて発信する部署だ。Kは「エアリアル」のリニューアルに際しても、従来通りにこれらトピックをまとめた指示書を送っていた。だが、長らく慣れ親しんだ現場からは、響いて返ってくるものが少ない。「初速の勢いはあるのに、それを持続できない何かがあるのではないか」。
Kは立ち止まり、もう一度何が足りないかを考えた。そして気付いた。営業現場の人間が、「エアリアル」を売りたいと感じていない。足りないもの、失ったものも、自分自身にあった。それは、「営業の目線」だった。営業を熟知しているはずの自分が、いつの間にか他の何より嫌っていた「現場を知らない人間」になっていたことに気付いたのだった。

自社初の試みによって、
全国の営業スタッフの
意識に変化が

「営業現場の気持ちになれるというのは、自分の唯一のストロングポイントのはず」。もし、自分が営業現場にいて、このような指示書を本社から投げられたらどう思うか。改めて自分が送った指示書を見直した。するとそれが、単なる独りよがりの押しつけに見えた。そこでKは、営業目線に戻ることから始めた。
今、自分が営業の立場ならまず何をするか。きっと得意先である卸業者に「エアリアル」の魅力を理解してもらうことから始めるだろう。そこで考えたのは、そうした魅力を伝えて成功している営業所の取り組みを、成功例として伝えようということだった。そして、全営業所の売り上げの数字を詳細に分析した。小さなことながら、本来の基本に立ち返るためには必要な作業だった。

自社初の試みによって、全国の営業スタッフの意識に変化が

この時、Kは営業所時代のひとつの経験に思い当たった。自分が本当に売りたいという思い入れがある商品は、営業に行く際、商談に関係なくともサンプル品を常に鞄に忍ばせ試食してもらっていたではないか。「一度、食べてもらえれば、このおいしさは伝わる」。その一念で、相手に商品を印象づける作戦だった。
その経験と営業所からの声をもとに、Kが商品開発課と討議を重ね、導き出した答えは、ヤマザキビスケットでは初めての「消費者へのサンプル品配布キャンペーン」というアイデアだった。
「販売の現場を知るものとして言えることは、営業スタッフみんなが自然に『売ろう』と思ってもらわなければ、商品は店頭には並ばないということ。データはそれを後押しするだけなんです。そのためには一人ひとりにまず消費者の声を聞かせよう、自分たちは本当においしいものを売っているんだという実感を持ってもらおうと考えました」。
Kはサンプル配布のキャンペーンにあたって、ひとつの条件を出している。「必ず、営業スタッフ自身が店頭に立つこと」。そして全社としては初であろう3万6千パックを、全国の営業スタッフがお客様一人ひとりに手渡しをしたのである。最前線の営業現場からは、「みんなが喜んでくれた」「おいしいという笑顔が嬉しかった」という反響の声が続々と返ってきた。中には手製の「エアリアル」エプロン姿で店頭に立った者もいた。それは、現場の営業担当者が本気で「エアリアルを売ってやろう」と思っている証だった。

05ブランドマネージャー発足によって、「エアリアル」はより光り輝く存在に

ブランドマネージャー
発足によって、
「エアリアル」は
より光り輝く存在に

現在、「エアリアル」は発売当時から4倍の売り上げを見せている。2012年秋には商品開発課にブランドマネージャー制度が導入された。ブランドを作り上げるところから売り込むまでの一連の流れを、常に把握する役目。さながら、ピッチ全体ににらみをきかせているキャプテンだ。
そして2013年夏、Uが開発研究室から商品開発課に異動し、ブランドマネージャーのポジションが託された。「エアリアル」を前にUの心にいつも浮かぶのは、お世話になった開発研究室の先輩、そして家族ともいえる仲間たちの姿だ。背負う期待とプレッシャーは、大きい。Uからは「この商品を伸ばしていかないと、製造現場の人たち、開発研究室の人たちにも面目が立ちませんよね」という言葉が出た。しかしその姿に、ためらいや気弱な様子はない。販売企画課のKは、頻繁にUの元を訪ねては前線の戦況を伝えている。同様にSも、自身の後任の様子を常時気にかけている。「周りの支えがあるので大丈夫です。それに『エアリアル』は、社内のみんなに心から愛されていますからね」。

「こんなに伸びているブランドはない」。社内の誰もがそう口にする。それは同時に、敗北は許されない闘いであることを意味する。だが「エアリアル」の成功こそ、今後の指標となるであろう。「エアリアル」をより光り輝かせ続けるために、ヤマザキビスケットのエースたちは今日もピッチを走り続けている。

「エアリアル」に続く次のスター商品を生み出すのは、あなたかもしれない。